まっていた。
「こいつは変だ。おまけにずいぶん暑いじゃないか。」
大学士はあおむいて空を見る。
太陽はまるで熟した苹果《りんご》のようで
そこらも無暗《むやみ》に赤かった。
「ずいぶんいやな天気になった。それにしてもこの太陽はあんまり赤い。きっとどこかの火山が爆発《ばくはつ》をやった。その細かな火山灰が正しく上層の気流に混じて地球を包囲しているな。けれどもそれだからと云って我輩のこの追跡には害にならない。もうこの足あとの終るところにあの途方《とほう》もない爬虫《はちゅう》の骨がころがってるんだ。我輩はその地点を記録する。もう一足だぞ。」
大学士はいよいよ勢《いきおい》こんで
その足跡をつけて行く。
ところが間もなく泥浜は
岬《みさき》のように突《つ》き出した。
「さあ、ここを一つ曲って見ろ。すぐ向う側にその骨がある。けれども事によったらすぐないかも知れない。すぐなかったらも少し追って行けばいい。それだけのことだ。」
大学士はにこにこ笑い
立ちどまって巻煙草《まきたばこ》を出し
マッチを擦《す》って煙《けむり》を吐《は》く。
それからわざと顔をしかめ
ごくおうように大股《おおまた》に

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