がついて立ちどまったら
なんだか足が柔《やわ》らかな
泥《どろ》に吸われているようだ。
堅《かた》い頁岩《けつがん》の筈《はず》だったと思って
楢ノ木大学士はうしろを向いた。
そしたら全く愕《おどろ》いた。
さっきから一心に跡《つ》けて来た
巨きな、蟇《がま》の形の足あとは
なるほどずうっと大学士の
足もとまでつづいていて
それから先ももっと続くらしかったが
も一つ、どうだ、大学士の
銀座でこさえた長靴《ながぐつ》の
あともぞろっとついていた。
「こいつはひどい。我輩《わがはい》の足跡までこんなに深く入るというのは実際少し恐《おそ》れ入った。けれどもそれでも探求の目的を達することは達するな。少し歩きにくいだけだ。さあもう斯《こ》うなったらどこまでだって追って行くぞ。」
学士はいよいよ大股《おおまた》に
その足跡をつけて行った。
どかどか鳴るものは心臓
ふいごのようなものは呼吸、
そんなに一生けん命だったが
又そんなにあたりもしずかだった。
大学士はふと波打ぎわを見た。
涛《なみ》がすっかりしずまっていた。
たしかにさっきまで
寄せて吠《ほ》えて砕《くだ》けていた涛が
いつかすっかりしず
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