れて睡《ねむ》れば夢も見ない
いつかすっかり夜が明けて
昨夜の続きの頁岩《けつがん》が
青白くぼんやり光っていた。
大学士はまるでびっくりして
急いで洞を飛び出した。
あわてて帽子《ぼうし》を落しそうになり
それを押《おさ》えさえもした。
「すっかり寝過ごしちゃった。ところでおれは一体何のために歩いているんだったかな。ええと、よく思い出せないぞ。たしかに昨日《きのう》も一昨日《おととい》も人の居ない処《ところ》をせっせと歩いていたんだが。いや、もっと前から歩いていたぞ。もう一年も歩いているぞ。その目的はと、はてな、忘れたぞ。こいつはいけない。目的がなくて学者が旅行をするということはない、必ず目的があるのだ。化石じゃなかったかな。ええと、どうか第三紀の人類に就《つ》いてお調べを願います、と、誰《たれ》か云ったようだ。いいや、そうじゃない、白堊紀《はくあき》の巨《おお》きな爬虫《はちゅう》類の骨骼《こっかく》を博物館の方から頼まれてあるんですがいかがでございましょう、一つお探しを願われますまいかと、斯うじゃなかったかな。斯うだ、斯うだ、ちがいない。さあ、ところでここは白堊系の頁岩だ。もうこ
前へ 次へ
全42ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング