たが、又《また》ポケットから
煙草《たばこ》を出して火をつけた。
それからくるっと振《ふ》り向いて
陸の方をじっと見定めて
急いでそっちへ歩いて行った。
そこには低い崖《がけ》があり
崖の脚《あし》には多分は涛《なみ》で
削《けず》られたらしい小さな洞《ほら》があったのだ。
大学士はにこにこして
中へはいって背嚢《はいのう》をとる。
それからまっくらなとこで
もしゃもしゃビスケットを喰《た》べた。
ずうっと向うで一列涛が鳴るばかり。
「ははあ、どうだ、いよいよ宿がきまって腹もできると野宿もそんなに悪くない。さあ、もう一服やって寝《ね》よう。あしたはきっとうまく行く。その夢を今夜見るのも悪くない。」
大学士の吸う巻煙草が
ポツンと赤く見えるだけ、
「斯《こ》う納まって見ると、我輩《わがはい》もさながら、洞熊《ほらくま》か、洞窟《どうくつ》住人だ。ところでもう寝よう。
[#ここから1字下げ]
闇《やみ》の向うで
涛がぼとぼと鳴るばかり
鳥も啼《な》かなきゃ
洞をのぞきに人も来ず、と。ふん、斯《こ》んなあんばいか。寝ろ、寝ろ。」
[#ここで字下げ終わり]
大学士はすぐとろとろする
疲《つか》
前へ
次へ
全42ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング