擦《こす》って耗《へら》して行くが、まるっきりうそさ。何でもおれのきくとこに依《よ》ると、あいつらは海岸のふくふくした黒土や、美しい緑いろの野原に行って知らん顔をして溝《みぞ》を掘《ほ》るやら、濠《ほり》をこさえるやら、それはどうも実にひどいもんだそうだ。話にも何にもならんというこった。」
ラクシャンの第三子も
つい大声で笑ってしまう。
「兄さん。なんだか、そんな、こじつけみたいな、あてこすりみたいな、芝居《しばい》のせりふのようなものは、一向あなたに似合いませんよ。」
ところがラクシャン第一子は
案外に怒り出しもしなかった。
きらきら光って大声で
笑って笑って笑ってしまった。
その笑い声の洪水《こうずい》は
空を流れて遥《はる》かに遥かに南へ行って
ねぼけた雷《かみなり》のようにとどろいた。
「うん、そうだ、もうあまり、おれたちのがらにもない小理窟《こりくつ》は止《よ》そう。おれたちのお父さんにすまない。お父さんは九つの氷河を持っていらしゃったそうだ。そのころは、ここらは、一面の雪と氷で白熊《しろくま》や雪狐《ゆきぎつね》や、いろいろなけものが居たそうだ。お父さんはおれが生れるときな
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