くなられたのだ。」
俄《にわ》かにラクシャンの末子《まっし》が叫ぶ。
「火が燃えている。火が燃えている。大兄さん。大兄さん。ごらんなさい。だんだん拡《ひろ》がります。」
ラクシャン第一子がびっくりして叫《さけ》ぶ。
「熔岩《ようがん》、用意っ。灰をふらせろ、えい、畜生《ちくしょう》、何だ、野火か。」
その声にラクシャンの第二子が
びっくりして眼《め》をさまし、
その長い顎《あご》をあげて、
眼を釘《くぎ》づけにされたように
しばらく野火をみつめている。
「誰《たれ》かやったのか。誰だ、誰だ、今ごろ。なんだ野火か。地面の挨《ほこり》をさらさらさらっと掃除《そうじ》する、てまえなんぞに用はない。」
するとラクシャンの第一子が
ちょっと意地悪そうにわらい
手をばたばたと振《ふ》って見せて
「石だ、火だ。熔岩だ。用意っ。ふん。」
と叫ぶ。
ばかなラクシャンの第二子が
すぐ釣《つ》り込《こ》まれてあわて出し
顔いろをぽっとほてらせながら
「おい兄貴、一吠《ひとほ》えしようか。」
と斯《こ》う云った。
兄貴はわらう、
「一吠えってもう何十万年を、きさまはぐうぐう寝《ね》ていたのだ。それでもいくらか
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