あ、そいつはどうも、大へん結構でございました。しかし、そのお持ち帰りになりました分はいづれでございますか。一寸《ちょっと》拝見をねがひたう存じます。」
「あゝ、見せるよ。たゞ僕はあんな立派なやつだから、事によったらもうすっかり曇ったぢゃないかと思ふんだ。実際蛋白石ぐらゐたよりのない宝石はないからね。今日|虹《にじ》のやうに光ってゐる。あしたは白いたゞの石になってしまふ。今日は円くて美しい。あしたは砕けてこなごなだ。そいつだね、こはいのは。しかしとにかく開いて見よう。この背嚢さ。」
「なるほど。」
貝の火|兄弟《けいてい》商会の
鼻の赤いその支配人は
こくっと息を呑《の》みながら
大学士の手もとを見つめてゐる。
大学士はごく無雑作に
背嚢をあけて逆さにした。
下等な玻璃蛋白石《はりたんぱくせき》が
三十ばかりころげだす。
「先生、困るぢゃありませんか。先生、これでは、何でも、あんまりぢゃありませんか。」
楢《なら》ノ木大学士は怒り出した。
「何があんまりだ。僕の知ったこっちゃない。ひどい難儀をしてあるんだ。旅費さへ返せばそれでよからう。さあ持って行け。帰れ、帰れ。」
大学士は上着の衣嚢《
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