楢ノ木大学士の野宿
宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)楢《なら》ノ木

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)貝の火|兄弟《けいてい》商会

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
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楢《なら》ノ木大学士は宝石学の専門だ。
ある晩大学士の小さな家《うち》へ、
「貝の火|兄弟《けいてい》商会」の、
赤鼻の支配人がやって来た。
「先生、ごく上等の蛋白石《たんぱくせき》の注文があるのですがどうでせう、お探しをねがへませんでせうか。もっともごくごく上等のやつをほしいのです。何せ相手がグリーンランドの途方もない成金ですから、ありふれたものぢゃなかなか承知しないんです。」
大学士は葉巻を横にくはへ、
雲母紙《うんもし》を張った天井を、
斜めに見上げて聴いてゐた。
「たびたびご迷惑で、まことに恐れ入りますが、いかゞなもんでございませう。」
そこで楢ノ木大学士は、
にやっと笑って葉巻をとった。
「うん、探してやらう。蛋白石のいゝのなら、流紋玻璃《りうもんはり》を探せばいゝ。探してやらう。僕は実際、
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