の大学士の小さな家
「貝の火|兄弟《けいてい》商会」の
赤鼻の支配人がやって来た。
「先生お手紙でしたから早速とんで来ました。大へんお早くお帰りでした。ごく上等のやつをお見あたりでございましたか、何せ相手がグリーンランドの途方もない成金ですからありふれたものぢゃなかなか承知しないんです。」
大学士は葉巻を横にくはへ
雲母紙《うんもし》を張った天井を
斜めに見ながらかう云った。
「うん探して来たよ、僕は一ぺん山へ出かけるともうどんなもんでも見附からんと云ふことは断じてない、けだしすべての宝石はみな僕をしたってあつまって来るんだね。いやそれだから、此度《こんど》なんかもまったくひどく困ったよ。殊に君注文が割合に柔らかな蛋白石《たんぱくせき》だらう。僕がその山へ入ったら蛋白石どもがみんなざらざら飛びついて来てもうどうしてもはなれないぢゃないか。それが君みんな貴蛋白石《プレシアスオーパル》の火の燃えるやうなやつなんだ。望みのとほりみんな背嚢《はいなう》の中に納めてやりたいことはもちろんだったが、それでは僕も身動きもできなくなるのだから気の毒だったがその中からごくいゝやつだけ撰んださ。」
「はは
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