、もう一めんの雷竜だらけ
実にもじゃもじゃしてゐたのだ。
水の中でも黒い白鳥のやうに
頭をもたげて泳いだり
頸をくるっとまはしたり
その厭《いや》らしいこと恐《こは》いこと
大学士はもう眼をつぶった。
ところがいつか大学士は
自分の鼻さきがふっふっ鳴って
暖いのに気がついた。
「たうとう来たぞ、喰はれるぞ。」
大学士は観念をして眼をあいた。
大さ二尺の四っ角な
まっ黒な雷竜《らいりゅう》の顔が
すぐ眼の前までにゅうと突き出され
その眼は赤く熟したやう。
その頸《くび》は途方もない向ふの
鼠《ねずみ》いろのがさがさした胴まで
まるで管のやうに続いてゐた。
大学士はカーンと鳴った。
もう喰はれたのだ、いやさめたのだ。
眼がさめたのだ、洞穴《ほらあな》は
まだまっ暗で恐らくは
十二時にもならないらしかった。
そこで楢《なら》ノ木大学士は
一つ小さなせきばらひをし
まだ雷電が居るやうなので
つくづく闇《やみ》をすかして見る。
外ではたしかに濤《なみ》の音
「なあんだ。馬鹿《ばか》にしてやがる。もう睡《ねむ》れんぞ。寒いなあ。」
又たばこを出す。火をつける。
楢ノ木大学士は宝石学の専門だ。
そ
前へ
次へ
全40ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング