り電《いなづま》のやうな計算だ。
ところが楢《なら》ノ木大学士は
も一度ぎくっと立ちどまった。
その膝《ひざ》はもうがたがたと鳴り出した。
見たまへ、学士の来た方の
泥の岸はまるでいちめん
うじゃうじゃの雷竜《らいりゅう》どもなのだ。
まっ黒なほど居ったのだ。
長い頸《くび》を天に延ばすやつ
頸をゆっくり上下に振るやつ
急いで水にかけ込むやつ
実にまるでうじゃうじゃだった。
「もういけない。すっかりうまくやられちゃった。いよいよおれも食はれるだけだ。大学士の号も一所になくなる。雷竜はあんまりひどい。前にも居るしうしろにも居る。まあたゞ一つたよりになるのはこの岬《みさき》の上だけだ。そこに登っておれは助かるか助からないか、事によったら新生代の沖積世が急いで助けに来るかも知れない。さあ、もうたったこの岬だけだぞ。」
学士はそっと岬にのぼる。
まるで蕈《きのこ》とあすなろとの
合の子みたいな変な木が
崖《がけ》にもじゃもじゃ生えてゐた。
そして本当に幸なことは
そこには雷竜が居なかった。
けれども折角登っても
そこらの景色は
あんまりいゝといふでもない、
岬の右も左の方も
泥の渚《なぎさ》は
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