けらを
手にとりあげてつくづく見て
パチッと向ふの隅《すみ》へ弾《はじ》く。
それから榾《ほだ》を一本くべた。
その時はもうあけ方で
大学士は背嚢《はいなう》から
巻煙草《まきたばこ》を二包み出して
榾のお礼に藁《わら》に置き
背嚢をしょひ小屋を出た。
石切場の壁はすっかり白く
その西側の面だけに
月のあかりがうつってゐた。

  野宿第三夜

(どうも少し引き受けやうが軽率だったな。グリーンランドの成金がびっくりする程立派な蛋白石《たんぱくせき》などを、二週間でさがしてやらうなんてのは、実際少し軽率だった。
 どうも斯《か》う人の居ない海岸などへ来て、つくづく夕方歩いてゐると東京のまちのまん中で鼻の赤い連中などを相手にして、いゝ加減の法螺《ほら》を吹いたことが全く情けなくなっちまふ。どうだ、この頁岩《けつがん》の陰気なこと。全くいやになっちまふな。おまけに海も暗くなったし、なかなか、流紋玻璃《りうもんはり》にも出《で》っ会《く》はさない。それに今夜もやっぱり野宿だ。野宿も二晩ぐらゐはいゝが、三晩となっちゃうんざりするな。けれども、まあ、仕方もないさ。ビスケットのあるうちは、歩いて野宿
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