》えしようか。」
と斯《か》う云った。
兄貴はわらふ、
「一吠えってもう何十万年を、きさまはぐうぐう寝てゐたのだ。それでもいくらかまだ力が残ってゐるのか」
無精な弟は只《ただ》一言《ひとこと》
「ない」
と答へた。
そして又長い顎《あご》をうでに載せ、
ぽっかりぽっかり寝てしまふ。
しづかなラクシャン第三子が
ラクシャンの第|四子《しし》に云ふ
「空が大へん軽くなったね、あしたの朝はきっと晴れるよ。」
「えゝ今夜は鷹《たか》が出ませんね」
兄は笑って弟を試す。
「さっきの野火で鷹の子供が焼けたのかな。」
弟は賢く答へた。
「鷹の子供は、もう余程、毛も剛《こは》くなりました。それに仲々強いから、きっと焼けないで遁《に》げたでせう」
兄は心持よく笑ふ。
「そんなら結構だ、さあもう兄さんたちはよくおやすみだ。楢《なら》ノ木大学士と云ふやつもよく睡《ねむ》ってゐる。さっきから僕等の夢を見てゐるんだぜ。」
するとラクシャン第四子が
ずるさうに一寸《ちょっと》笑ってかう云った。
「そんなら僕一つおどかしてやらう。」
兄のラクシャン第三子が
「よせよせいたづらするなよ」
と止めたが
いたづらの弟はそ
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