にすまない。お父さんは九つの氷河を持っていらしゃったさうだ。そのころは、こゝらは、一面の雪と氷で白熊《しろくま》や雪狐《ゆきぎつね》や、いろいろなけものが居たさうだ。お父さんはおれが生れるときなくなられたのだ。」
俄《には》かにラクシャンの末子《まっし》が叫ぶ。
「火が燃えてゐる。火が燃えてゐる。大兄さん。大兄さん。ごらんなさい。だんだん拡《ひろ》がります。」
ラクシャン第一子がびっくりして叫ぶ。
「熔岩《ようがん》、用意っ。灰をふらせろ、えい、畜生、何だ、野火か。」
その声にラクシャンの第二子が
びっくりして眼をさまし、
その長い顎《あご》をあげて、
眼を釘《くぎ》づけにされたやうに
しばらく野火をみつめてゐる。
「誰《たれ》かやったのか。誰だ、誰だ、今ごろ。なんだ野火か。地面の挨《ほこり》をさらさらさらっと掃除する、てまへなんぞに用はない。」
するとラクシャンの第一子が
ちょっと意地悪さうにわらひ
手をばたばたと振って見せて
「石だ、火だ。熔岩だ。用意っ。ふん。」
と叫ぶ。
ばかなラクシャンの第二子が
すぐ釣り込まれてあわて出し
顔いろをぽっとほてらせながら
「おい兄貴、一|吠《ほ
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