れを聞かずに
光る大きな長い舌を出して
大学士の額をべろりと嘗《な》めた。
大学士はひどくびっくりして
それでも笑ひながら眼をさまし
寒さにがたっと顫《ふる》へたのだ。
いつか空がすっかり晴れて
まるで一面星が瞬き
まっ黒な四つの岩頸《がんけい》が
たゞしくもとの形になり
じっとならんで立ってゐた。

  野宿第二夜

わが親愛な楢《なら》ノ木大学士は
例の長い外套《ぐゎいたう》を着て
夕陽《ゆふひ》をせ中に一杯浴びて
すっかりくたびれたらしく
度々空気に噛《か》みつくやうな
大きな欠伸《あくび》をやりながら
平らな熊出《くまで》街道を
すたすた歩いて行ったのだ。
俄《には》かに道の右側に
がらんとした大きな石切場が
口をあいてひらけて来た。
学士は咽喉《のど》をこくっと鳴らし
中に入って行きながら
三角の石かけを一つ拾ひ
「ふん、こゝも角閃花崗岩《かくせんくゎかうがん》」と
つぶやきながらつくづくと
あたりを見れば石切場、
石切りたちも帰ったらしく
小さな笹《ささ》の小屋が一つ
淋《さび》しく隅《すみ》にあるだけだ。
「こいつはうまい。丁度いゝ。どうもひとのうちの門口《かどぐち》に立
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