がならび、そのけむりはやさしい深い夜の空にのぼって、カシオピイアもぐらぐらゆすれ、琴座も朧《おぼろ》にまたゝいたのです。どうしてもこれは遙《はる》かの南国の夏の夜の景色のやうに思はれたのです。私はひとりホクホクしながら通りをゆっくり歩いて行きました。いろいろな羽虫が本当にその火の中に飛んで行くのも私は見ました。また、繃帯《はうたい》をしたり、きれを顔にあてたりしながら、まちの人たちが火をたいてゐるのも見ました。
そのうちに、私は向ふの方から、高い鋭い、そして少し変な力のある声が、私の方にやって来るのを聞きました。だんだん近くなりますと、それは頑丈《ぐわんぢやう》さうな変に小さな腰の曲ったおぢいさんで、一枚の板きれの上に四本の鯨油蝋燭《げいゆらふそく》をともしたのを両手に捧げてしきりに斯《か》う叫んで来るのでした。
「家の中の燈火《あかり》を消せい。電燈を消してもほかのあかりを点《つ》けちゃなんにもならん。家の中のあかりを消せい。」
あかりをつけてゐる家があるとそのおぢいさんはいちいちその戸口に立って叫ぶのでした。
「家の中のあかりを消せい。電燈を消してもほかのあかりをつけちゃなんに
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