》を入れてゐたのです。
「ははあ、毒蛾《どくが》を殺す為《ため》ですね。」私はアーティストに斯《か》う言ひました。
「さやうでございます。」アーティストは、私の頭に、金口の瓶《びん》から香水をかけながら答へました。それからアーティストは、私の顔をも一度よく拭《ぬぐ》って、それから戸口の方をふり向いて、
「さあ、出来たよ、ちょっとみんな見て呉れ。」と云ひました。アーティストたちは、あるいは戸口に立ち、あるいはたき火のそばまで行って、外の景色をながめてゐましたが、この時大急ぎでみんな私のうしろに集まりました。そして鏡の中の私の顔を、それはそれは真面目《まじめ》な風で検《しら》べました。
「いゝやうだね。」アーティストたちは口口に言ひました。私はそこで椅子《いす》から立ちました。銀貨を一枚払ひました。そしてその大きなガラスの戸口から外の通りに出たのです。
 外へ出て見て、私は、全くもう一度、変な気がして、胸の躍るのをやめることができませんでした。さうでせう、マリオの市のやうな大きな西洋造りの並んだ通りに、電気が一つもなくて、並木のやなぎには、黄いろの大きなラムプがつるされ、みちにはまっ赤な火
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