もならん。家の中のあかりを消せい。」その声はガランとした通りに何べんも反響してそれから闇《やみ》に消えました。
この人はよほどみんなに敬はれてゐるやうでした。どの人もどの人もみんな叮寧におじぎをしました。おぢいさんはいよいよ声をふりしぼって叫んで行くのでした。
「家の中のあかりを消せい。電燈を消してもほかのあかりをつけちゃなんにもならん。家の中のあかりを消せい。いや、今晩は。」叫びながら右左の人に挨拶《あいさつ》を返して行くのでした。
「あの人は何ですか。」私は一人の町の人にたづねました。
「撃剣の先生です。」その人は答へました。
「あの床屋のアセチレンも消されるぞ。今度は親方も、とても敵《かな》ふまい。」私はひとりで哂《わら》ひました。それからみちを三四遍きいて、ホテルに帰りました。室《へや》にはほんの小さな蝋燭《らふそく》が一本|点《つ》いて、その下に扇風機が置いてありました。私は扇風機をかけ、気持よく休み、それから給仕が来て「お食事は」とたづねましたので牛乳を持って来て貰《もら》って、それを呑《の》んでゐるうちに、電燈も又点きましたから、あしたの仕度を少しして、その晩は寝《やす
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