たしますやうでございますが。」
「さうですね、ぢゃさう願ひませうか。」私も叮寧に云ひました。それはこの人たちがみんな芸術家なから[#「なから」はママ]です。
さて、私の頭はずんずん奇麗になり、気分も大へん直りました。これなら、今夜よく寝《やす》んで、あしたはマリオ農学校、マリオ工学校、マリオ商学校、三つだけ視《み》て歩いても大丈夫だと思って、気もちよく青い植木鉢《うゑきばち》や、アーティストの白い指の動くのや、チャキチャキ鳴る鋏《はさみ》の銀の影をながめて居りました。
すると俄《には》かに私の隣りの人が、
「あ、いけない、いけない、たうとうやられた。」とひどく高い声で叫んだのです。
びっくりして私はそっちを見ました。アーティストたちもみな馳《は》せ集ったのです。その叫んだ人は、たしかマリオ競馬会の会長か、幹事か技師長かだったでせうがひげを片っ方だけ剃《そ》った立派な紳士でした。どうしてその人が競馬の何かだといふことがわかったかと云ひますと、実はその人の胸に蹄鉄《ていてつ》の形の徽章《きしゃう》のついてゐたのを、さっき私は椅子にかける前ちゃんと見たのです。とにかくその人は、全く怖《
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