すからね、殊に技術の点になると、実に念入りなもんでした。
「お髪《くし》はこの通りの型でよろしうございますか。」私が鏡の前の白いきれをかけた上等の椅子《いす》に座ったとき、一人のアーティストが私にたづねました。
「えゝ。」私は外のことを考へながらぼんやり返事をしました。するとそのアーティストは向ふで手のあいてゐる二人のアーティストを指で招きながら云ひました。
「どうだらう。お客さまはこの通りの型でいゝと仰《お》っしゃるが、君たちの意見はどうだい。」
二人は私のうしろに来て、しばらくじっと鏡にうつる私の顔を見てゐましたが、そのうち一人のアーティストが、白服の腕を胸に組んで答へました。
「さあ、どうかね、お客さまのお顎《あご》が白くて、それに円くて、大へん温和《おとな》しくいらっしゃるんだから、やはりオールバックよりはネオグリークの方が調和がいゝぢゃないかな。」
「うん。僕《ぼく》もさう思ふね。」も一人も同意しました。私の係りのアーティストがもちろんといふやうに一寸《ちょっと》笑って、私に申しました。
「いかゞでございます、たゞいまのお髪《くし》の型よりは、ネオグリークの方がお顔と調和い
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