し、電気会社には、まるで燈台で使ふやうな大きなラムプを、千|燭《しょく》の電燈の代りに高く高く吊《つる》してゐるのも私は見ました。また辻々《つじつじ》には毒蛾の記事に赤インクで圏点をつけたマリオの新聞もはられてゐました。けれども奇体なことは、此《こ》の町に繃帯《はうたい》をしてゐる人も、きれで顔を押へてゐる人も、又実際に顔や手が赤くはれてゐる人も一人も見あたらないことでした。
 きっとこの町にはえらい医者が居て治療の法が進んでゐるんだと私は思ひました。
 その晩、その町で電燈が消え、たき火が燃されたことはすっかり前の晩と同じでした。けれども電燈の長く消えてゐたこと、たき火の盛んなこととてもマリオよりはひどかったのです。私は早く寝んで、次の日朝早くからコワック大学校の視察に行きました。
 大学校は、やっぱり大学校で、教授たちも、巡回視学官の私などが行ったからと云って、あんまり緊張をするでもなし、少し失敬ではありましたが、まあ私はがまんをしました。
 それからだんだんまはって行って、その時は丁度十時頃でしたが、一つの標本室へ入って行きましたら、三人の教師たちが、一つの顕微鏡を囲んで、しきり
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