にかはるがはるのぞいたり色素をデックグラスに注《つ》いだりしてゐました。
 校長が、みんなを呼ばうとしたのを、私は手で止めて、そっとそのうしろに行って見ました。やっぱり毒蛾《どくが》の話です。多分毒蛾の鱗粉《りんぷん》を見てゐるのだと私は思ひました。
「中軸はあるにはありますね。」
「その中軸に、酸があるのぢゃないですか。」
「中軸が管になって、そこに酸があって、その先端が皮膚にささって、折れたとき酸が注ぎ込まれるといふんですか。それなら全く模型的ですがね。」
「しかしさうでないとも云へないでせう。たゞ中軸が管になってゐることと、その軸に酸が入ってゐることが、証明されないだけです。」
「メチレンブリューの代りに、青いリトマスを使って見たらどうですか。」
「さうですね。」一人が立って、リトマス液を取りに行かうとして、私にぶっつかりました。
「文部局の巡回視学官です。」校長がみんなに云ひました。みんなは私に礼をしました。
「どうです。そのリトマスの反応を拝見したいものですが。」私は笑って申しました。
 青いリトマス液が新らしいデックグラスに注がれました。
「顕著です。中軸だけ赤く変ってゐま
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