っていました。かげろうはほんとうにあわれな細い声ではじめから歌い直しました。
「あわれやむすめちちおやが、
旅ではてたと聞いたなら、
ちさいあの手に白手甲《しろてこう》、
いとし巡礼《じゅんれ》の雨とかぜ。
もうしご冥加《みょうが》ご報謝と、
かどなみなみに立つとても、
非道の蜘蛛の網ざしき、
さわるまいぞや。よるまいぞ。」
「小しゃくなことを。」と蜘蛛はただ一息に、かげろうを食い殺してしまいました。そしてしばらくそらを向いて、腹をこすってからちょっと眼をぱちぱちさせて
「小しゃくなことを言うまいぞ。」とふざけたように歌いながら又糸をはきました。
網は三まわり大きくなって、もう立派な蜘蛛の巣です。蜘蛛はすっかり安心して、又葉のかげにかくれました。その時下の方でいい声で歌うのをききました。
「赤いてながのくぅも、
天のちかくをはいまわり、
スルスル光のいとをはき、
きぃらりきぃらり巣をかける。」
見るとそれはきれいな女の蜘蛛でした。
「ここへおいで。」と手長の蜘蛛が云って糸を一本すうっとさげてやりました。
女の蜘蛛がすぐそれにつかまってのぼって来ました。そして二
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