蜘蛛となめくじと狸
宮沢賢治

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)山猫《やまねこ》が申しました

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)毎日|沢山《たくさん》食べるものが
−−

 蜘蛛と、銀色のなめくじとそれから顔を洗ったことのない狸とはみんな立派な選手でした。
 けれども一体何の選手だったのか私はよく知りません。
 山猫《やまねこ》が申しましたが三人はそれはそれは実に本気の競争をしていたのだそうです。
 一体何の競争をしていたのか、私は三人がならんでかける所も見ませんし学校の試験で一番二番三番ときめられたことも聞きません。
 一体何の競争をしていたのでしょう、蜘蛛は手も足も赤くて長く、胸には「ナンペ」と書いた蜘蛛文字のマークをつけていましたしなめくじはいつも銀いろのゴムの靴《くつ》をはいていました。又《また》狸は少しこわれてはいましたが運動シャッポをかぶっていました。
 けれどもとにかく三人とも死にました。
 蜘蛛は蜘蛛暦《くもれき》三千八百年の五月に没《な》くなり銀色のなめくじがその次の年、狸が又その次の年死にました。三人の伝記をすこしよく
次へ
全18ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング