調べて見ましょう。

   一、赤い手長の蜘蛛

 蜘蛛の伝記のわかっているのは、おしまいの一ヶ年間だけです。
 蜘蛛は森の入口《いりくち》の楢《なら》の木に、どこからかある晩、ふっと風に飛ばされて来てひっかかりました。蜘蛛はひもじいのを我慢《がまん》して、早速《さっそく》お月様の光をさいわいに、網《あみ》をかけはじめました。
 あんまりひもじくておなかの中にはもう糸がない位でした。けれども蜘蛛は
「うんとこせうんとこせ」と云《い》いながら、一生けん命糸をたぐり出して、それはそれは小さな二銭銅貨位の網をかけました。
 夜あけごろ、遠くから蚊《か》がくうんとうなってやって来て網につきあたりました。けれどもあんまりひもじいときかけた網なので、糸に少しもねばりがなくて、蚊はすぐ糸を切って飛んで行こうとしました。
 蜘蛛はまるできちがいのように、葉のかげから飛び出してむんずと蚊に食いつきました。
 蚊は「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」と哀《あわ》れな声で泣きましたが、蜘蛛は物も云わずに頭から羽からあしまで、みんな食ってしまいました。そしてホッと息をついてしばらくそらを向いて腹をこ
前へ 次へ
全18ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング