すってから、又少し糸をはきました。そして網が一まわり大きくなりました。
蜘蛛はそして葉のかげに戻《もど》って、六つの眼《め》をギラギラ光らせてじっと網をみつめて居《お》りました。
「ここはどこでござりまするな。」と云いながらめくらのかげろうが杖《つえ》をついてやって参りました。
「ここは宿屋ですよ。」と蜘蛛が六つの眼を別々にパチパチさせて云いました。
かげろうはやれやれというように、巣《す》へ腰《こし》をかけました。蜘蛛は走って出ました。そして
「さあ、お茶をおあがりなさい。」と云いながらかげろうの胴中《どうなか》にむんずと噛《か》みつきました。
かげろうはお茶をとろうとして出した手を空にあげて、バタバタもがきながら、
「あわれやむすめ、父親が、
旅で果てたと聞いたなら」
と哀れな声で歌い出しました。
「えい。やかましい。じたばたするな。」と蜘蛛が云いました。するとかげろうは手を合せて
「お慈悲《じひ》でございます。遺言《ゆいごん》のあいだ、ほんのしばらくお待ちなされて下されませ。」とねがいました。
蜘蛛もすこし哀れになって
「よし早くやれ。」といってかげろうの足をつかんで待
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