や。なまねこなまねこ。おぼしめしのとおり。むにゃむにゃ。」
 兎はすっかりなくなってしまいました。
 そこで狸のおなかの中で云いました。
「すっかりだまされた。お前の腹の中はまっくろだ。ああくやしい。」
 狸は怒《おこ》って云いました。
「やかましい。はやく消化しろ。」
 そして狸はポンポコポンポンとはらつづみをうちました。
 それから丁度二ヶ月たちました。ある日、狸は自分の家《うち》で、例のとおりありがたいごきとうをしていますと、狼《おおかみ》がお米を三|升《じょう》さげて来て、どうかお説教をねがいますと云いました。
 そこで狸は云いました。
「みんな山ねこさまのおぼしめしじゃ。お前がお米を三升もって来たのも、わしがお前に説教するのもじゃ。山ねこさまはありがたいお方じゃ。兎はおそばに参って、大臣になられたげな。お前もものの命をとったことは、五百や千では利《き》くまいに、早うざんげさっしゃれ。でないと山ねこさまにえらい責苦《せめく》にあわされますぞい。おお恐《おそ》ろしや。なまねこ。なまねこ。」
 狼はおびえあがって、きょろきょろしながらたずねました。
「そんならどうしたら助かりますか
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