ゃありませんか。」
 狸はむにゃむにゃ兎の耳をかみながら、
「なまねこ、なまねこ、みんな山猫さまのおぼしめしどおり。なまねこ。」と云いながら、とうとう兎の両方の耳をたべてしまいました。
 兎もそうきいていると、たいへんうれしくてボロボロ涙《なみだ》をこぼして云いました。
「なまねこ、なまねこ。ああありがたい、山猫さま。私《わたし》のような悪いものでも助かりますなら耳の二つやそこらなんでもございませぬ。なまねこ。」
 狸もそら涙をボロボロこぼして
「なまねこ、なまねこ、私《わたくし》のようなあさましいものでも助かりますなら手でも足でもさしあげまする。ああありがたい山猫さま。みんなおぼしめしのまま。」と云いながら兎の手をむにゃむにゃ食べました。
 兎はますますよろこんで、
「ああありがたや、山猫さま。私《わたくし》のようないくじないものでも助かりますなら手の二本やそこらはいといませぬ。なまねこ、なまねこ。」
 狸はもうなみだで身体《からだ》もふやけそうに泣いたふりをしました。
「なまねこ、なまねこ。私《わたし》のようなとてもかなわぬあさましいものでも、お役にたてて下されますか。ああありがた
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