胃袋にどうかよろしく云って下さいな。」と云いながら銀色のなめくじをペロリとやりました。
三、顔を洗わない狸《たぬき》
狸は顔を洗いませんでした。
それもわざと洗わなかったのです。
狸は丁度蜘蛛が林の入口《いりくち》の楢《なら》の木に、二銭銅貨位の巣《す》をかけた時、すっかりお腹《なか》が空《す》いて一本の松《まつ》の木によりかかって目をつぶっていました。すると兎《うさぎ》がやって参りました。
「狸さま。こうひもじくては全く仕方ございません。もう死ぬだけでございます。」
狸がきもののえりを掻《か》き合せて云いました。
「そうじゃ。みんな往生じゃ。山猫大明神《やまねこだいみょうじん》さまのおぼしめしどおりじゃ。な。なまねこ。なまねこ。」
兎も一緒《いっしょ》に念猫《ねんねこ》をとなえはじめました。
「なまねこ、なまねこ、なまねこ、なまねこ。」
狸は兎の手をとってもっと自分の方へ引きよせました。
「なまねこ、なまねこ、みんな山猫さまのおぼしめしどおり、なまねこ。なまねこ。」と云いながら兎の耳をかじりました。兎はびっくりして叫《さけ》びました。
「あ痛っ。狸さん。ひどいじ
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