な。」
 狸が云いました。
「わしは山ねこさまのお身代りじゃで、わしの云うとおりさっしゃれ。なまねこ。なまねこ。」
「どうしたらようございましょう。」と狼があわててききました。狸が云いました。
「それはな。じっとしていさしゃれ。な。わしはお前のきばをぬくじゃ。な。お前の目をつぶすじゃ。な。それから。なまねこ、なまねこ、なまねこ。お前のみみを一寸《ちょっと》かじるじゃ。なまねこ。なまねこ。こらえなされ。お前のあたまをかじるじゃ。むにゃ、むにゃ。なまねこ。堪忍《かんにん》が大事じゃぞえ。なま……。むにゃむにゃ。お前のあしをたべるじゃ。うまい。なまねこ。むにゃ。むにゃ。おまえのせなかを食うじゃ。うまい。むにゃむにゃむにゃ。」
 狼は狸のはらの中で云いました。
「ここはまっくらだ。ああ、ここに兎の骨がある。誰《たれ》が殺したろう。殺したやつは狸さまにあとでかじられるだろうに。」
 狸は無理に「ヘン。」と笑っていました。
 さて蜘蛛はとけて流れ、なめくじはペロリとやられ、そして狸は病気にかかりました。
 それはからだの中に泥《どろ》や水がたまって、無暗《むやみ》にふくれる病気で、しまいには中に野
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