みました。五六つぶを名残《なご》りに落してすばやく引きあげて行ったという風でした。そして陽《ひ》がさっと落ちて来ました。見上げますと白い雲のきれ間から大きな光る太陽が走って出ていたのです。私どもは思わず歓呼の声をあげました。楢や柏の葉もきらきら光ったのです。
「おい、ここはどの辺だか見て置かないと今度来るときわからないよ。」慶次郎が言いました。
「うん。それから去年のもさがして置かないと。兄さんにでも来て貰《もら》おうか。あしたは来れないし。」
「あした学校を下《さが》ってからでもいいじゃないか。」慶次郎は私の兄さんには知らせたくない風でした。
「帰りに暗くなるよ。」
「大丈夫さ。とにかくさがして置こう。崖はじきだろうか。」
私たちは籠はそこへ置いたまま崖の方へ歩いて行きました。そしたらまだまだと思っていた崖がもうすぐ眼の前に出ましたので私はぎくっとして手をひろげて慶次郎の来るのをとめました。
「もう崖だよ。あぶない。」
慶次郎ははじめて崖を見たらしくいかにもどきっとしたらしくしばらくなんにも云いませんでした。
「おい、やっぱり、すると、あすこは去年のところだよ。」私は言いました。
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