した。実際山を歩くことなどは私よりも慶次郎の方がずうっとなれていて上手でした。
ところがうまいことはいきなり私どもははぎぼだしに出《で》っ会《く》わしました。そこはたしかに去年の処ではなかったのです。ですから私は
「おい、ここは新らしいところだよ。もう僕《ぼく》らはきのこ山を二つ持ったよ。」と言ったのです。すると慶次郎も顔を赤くしてよろこんで眼《め》や鼻や一緒になってどうしてもそれが直らないという風でした。
「さあ、取ってこう。」私は云いました。そして白いのばかりえらんで二人ともせっせと集めました。昨年のことなどはすっかり途中で話して来たのです。
間もなく籠が一ぱいになりました。丁度そのときさっきからどうしても降りそうに見えた空から雨つぶがポツリポツリとやって来ました。
「さあぬれるよ。」私は言いました。
「どうせずぶぬれだ。」慶次郎も云いました。
雨つぶはだんだん数が増して来てまもなくザアッとやって来ました。楢の葉はパチパチ鳴り雫《しずく》の音もポタッポタッと聞えて来たのです。私と慶次郎とはだまって立ってぬれました。それでもうれしかったのです。
ところが雨はまもなくぱたっとや
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