宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)楢渡《ならわたり》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一人|野葡萄《のぶどう》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)噛ぶり[#「噛ぶり」に傍点]
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 楢渡《ならわたり》のとこの崖《がけ》はまっ赤でした。
 それにひどく深くて急でしたからのぞいて見ると全くくるくるするのでした。
 谷底には水もなんにもなくてただ青い梢《こずえ》と白樺《しらかば》などの幹が短く見えるだけでした。
 向う側もやっぱりこっち側と同じようでその毒々しく赤い崖には横に五本の灰いろの太い線が入っていました。ぎざぎざになって赤い土から喰《は》み出していたのです。それは昔《むかし》山の方から流れて走って来て又《また》火山灰に埋《うず》もれた五層の古い熔岩流《ようがんりゅう》だったのです。
 崖のこっち側と向う側と昔は続いていたのでしょうがいつかの時代に裂《さ》けるか罅《わ》れるかしたのでしょう。霧《きり》のあるときは谷の底はまっ白でなんにも見えませんでした。
 私がはじめてそこへ行ったのはたし
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