か尋常《じんじょう》三年生か四年生のころです。ずうっと下の方の野原でたった一人|野葡萄《のぶどう》を喰《た》べていましたら馬番の理助が欝金《うこん》の切れを首に巻いて木炭《すみ》の空俵をしょって大股《おおまた》に通りかかったのでした。そして私を見てずいぶんな高声で言ったのです。
「おいおい、どこからこぼれて此処《ここ》らへ落ちた? さらわれるぞ。蕈《きのこ》のうんと出来る処《ところ》へ連れてってやろうか。お前なんかには持てない位蕈のある処へ連れてってやろうか。」
私は「うん。」と云《い》いました。すると理助は歩きながら又言いました。
「そんならついて来い。葡萄などもう棄《す》てちまえ。すっかり唇《くちびる》も歯も紫《むらさき》になってる。早くついて来い、来い。後《おく》れたら棄てて行くぞ。」
私はすぐ手にもった野葡萄の房《ふさ》を棄ていっしんに理助について行きました。ところが理助は連れてってやろうかと云っても一向私などは構わなかったのです。自分だけ勝手にあるいて途方もない声で空に噛ぶり[#「噛ぶり」に傍点]つくように歌って行きました。私はもうほんとうに一生けんめいついて行ったのです
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