私どもは柏《かしわ》の林の中に入りました。
 影《かげ》がちらちらちらちらして葉はうつくしく光りました。曲った黒い幹の間を私どもはだんだん潜《くぐ》って行きました。林の中に入ったら理助もあんまり急がないようになりました。又じっさい急げないようでした。傾斜《けいしゃ》もよほど出てきたのでした。
 十五分も柏の中を潜ったとき理助は少し横の方へまがってからだをかがめてそこらをしらべていましたが間もなく立ちどまりました。そしてまるで低い声で、
「さあ来たぞ。すきな位とれ。左の方へは行くなよ。崖だから。」
 そこは柏や楢の林の中の小さな空地でした。私はまるでぞくぞくしました。はぎぼだしがそこにもここにも盛《さか》りになって生えているのです。理助は炭俵をおろして尤《もっとも》らしく口をふくらせてふうと息をついてから又言いました。
「いいか。はぎぼだしには茶いろのと白いのとあるけれど白いのは硬《かた》くて筋が多くてだめだよ。茶いろのをとれ。」
「もうとってもいいか。」私はききました。
「うん。何へ入れてく。そうだ。羽織へ包んで行け。」
「うん。」私は羽織をぬいで草に敷《し》きました。
 理助は
前へ 次へ
全11ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング