それから私をふり向いて私の腕《うで》を押《おさ》えてしまいました。
「さあ、見ろ、どうだ。」
 私は向うを見ました。あのまっ赤な火のような崖だったのです。私はまるで頭がしいんとなるように思いました。そんなにその崖が恐《おそ》ろしく見えたのです。
「下の方ものぞかしてやろうか。」理助は云いながらそろそろと私を崖のはじにつき出しました。私はちらっと下を見ましたがもうくるくるしてしまいました。
「どうだ。こわいだろう。ひとりで来ちゃきっとここへ落ちるから来年でもいつでもひとりで来ちゃいけないぞ。ひとりで来たら承知しないぞ。第一みちがわかるまい。」
 理助は私の腕をはなして大へん意地の悪い顔つきになって斯《こ》う云いました。
「うん、わからない。」私はぼんやり答えました。
 すると理助は笑って戻りました。
 それから青ぞらを向いて高く歌をどなりました。
 さっきの蕈を置いた処へ来ると理助はどっかり足を投げ出して座《すわ》って炭俵をしょいました。それから胸で両方から縄《なわ》を結んで言いました。
「おい、起して呉《く》れ。」
 私はもうふところへ一杯《いっぱい》にきのこをつめ羽織を風呂敷《ふろし
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