めはバタバタ云って、手もつけられない子供らばかりだったがね、みんな、間もなく、わしの感化で、おとなしく立派になった。そして、それはそれは、安楽に一生を送ったのだ。栄耀《えいえう》栄華《えいぐわ》をきはめたもんだ。」
親ねずみは、あんまりうれしくて、声も出ませんでした。そして、ペコペコ頭をさげて、急いで自分の穴へもぐり込んで、子供のフウねずみを連れ出して、鳥箱先生の処へやって参りました。
「この子供でございます。どうか、よろしくおねがひ致します。どうかよろしくおねがひ致します。」二人は頭をぺこぺこさげました。
すると、先生は、
「ははあ、仲々賢こさうなお子さんですな。頭のかたちが大へんよろしい。いかにも承知しました。きっと教へてあげますから。」
ある日、フウねずみが先生のそばを急いで通って行かうとしますと、鳥箱先生があわてて呼びとめました。
「おい。フウ。ちょっと待ちなさい。なぜ、おまへは、さう、ちょろちょろ、つまだてしてあるくんだ。男といふものは、もっとゆっくり、もっと大股《おほまた》にあるくものだ。」
「だって先生。僕《ぼく》の友だちは、誰《たれ》だってちょろちょろ歩かない者はありません。僕はその中で、一番威張って歩いてゐるんです。」
「お前の友だちといふのは、どんな人だ。」
「しらみに、くもに、だにです。」
「そんなものと、お前はつきあってゐるのか。なぜもう少し、りっぱなものとつきあはん。なぜもっと立派なものとくらべないか。」
「だって、僕は、猫や、犬や、獅子《しし》や、虎《とら》は、大嫌《だいきら》ひなんです。」
「さうか。それなら仕方ない。が、もう少しりっぱにやって貰《もら》ひたい。」
「もうわかりました。先生。」フウねずみは一目散に逃げて行ってしまひました。
それから又五六日たって、フウねずみが、いそいで鳥箱先生のそばをかけ抜けようとしますと、先生が叫びました。
「おい。フウ。一寸《ちょっと》待ちなさい。なぜお前は、そんなにきょろきょろあたりを見てあるくのです。男はまっすぐに行く方を向いて歩くもんだ。それに決して、よこめなんかはつかふものではない。」
「だって先生。私の友達はみんなもっときょろきょろしてゐます。」
「お前の友だちといふのは誰だ。」
「たとへばくもや、しらみや、むかでなどです。」
「お前は、また、そんなつまらないものと自分をくらべてゐ
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