るが、それはよろしくない。お前はりっぱな鼠になる人なんだからそんな考はよさなければいけない。」
「だって私の友達は、みんなさうです。私はその中では一番ちゃんとしてゐるんです。」
 そしてフウねずみは一目散に逃げて穴の中へはひってしまひました。
 それから又五六日たって、フウねずみが、いつものとほり、大いそぎで鳥箱先生のそばを通りすぎようとしますと、先生が網のチョッキをがたっとさせながら、呼びとめました。
「おい。フウ、ちょっと待ちなさい。おまへはいつでもわしが何か云はうとすると、早く逃げてしまはうとするが、今日は、まあ、すこしおちついて、こゝへすわりなさい。お前はなぜそんなにいつでも首をちゞめて、せなかを円くするのです。」
「だって、先生。私の友達は、みんな、もっとせなかを円くして、もっと首をちゞめてゐますよ。」
「お前の友達といっても、むかでなどはせなかをすっくりとのばしてあるいてゐるではないか。」
「いゝえ。むかではさうですけれども、ほかの友だちはさうではありません。」
「ほかの友だちといふのは、どんな人だ。」
「けしつぶや、ひえつぶや、おほばこの実などです。」
「なぜいつでも、そんなつまらないものとだけ、くらべるのだ。えゝ。おい。」
 フウねずみは面倒臭くなったので一目散に穴の中へ逃げ込みました。
 鳥箱先生も、今度といふ今度は、すっかり怒ってしまって、ガタガタガタガタふるへて叫びました。
「フウの母親、こら、フウの母親。出て来い。おまへのむすこは、もうどうしても退校だ。引き渡すから早速出て来い。」
 フウのおっかさんねずみは、ブルブルふるへてゐるフウねずみのえり首をつかんで、鳥箱先生の前に連れて来ました。
 鳥箱先生は怒って、ほてって、チョッキをばたばたさせながら云ひました。
「おれは四人もひよどりを教育したが、今日までこんなひどいぶじょくを受けたことはない。実にこの生徒はだめなやつだ。」
 その時、まるで、嵐《あらし》のやうに黄色なものが出て来て、フウをつかんで地べたへたゝきつけ、ひげをヒクヒク動かしました。それは猫《ねこ》大将でした。
 猫大将は、
「ハッハッハ、先生もだめだし、生徒も悪い。先生はいつでも、もっともらしいうそばかり云ってゐる。生徒は志がどうもけしつぶより小さい。これではもうとても国家の前途が思ひやられる。」と云ひました。



底本:「新
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