んまり空や林が恋しくて、たうとう、胸がつまって死んでしまひました。
 四番目のは、先生がある夏、一寸《ちょっと》油断をして網のチョッキを大きく開けたまゝ、睡《ねむ》ってゐるあひだに、乱暴な猫《ねこ》大将が来て、いきなりつかんで行ってしまったのです。鳥箱先生も目をさまして、
「あっ、いかん。生徒をかへしなさい。」と云ひましたが、猫大将はニヤニヤ笑って、向ふへ走って行ってしまひました。鳥箱先生も
「あゝ哀れなことだ。」と云ひました。しかし鳥箱先生は、それからはすっかり信用をなくしました。そしていきなり物置の棚《たな》へ連れて来られました。
「ははあ、こゝは、大へん、空気の流通が悪いな。」と鳥箱先生は云ひながら、あたりを見まはしました。棚の上には、こはれかゝった植木鉢《うゑきばち》や、古い朱塗りの手桶《てをけ》や、そんながらくたが一杯でした。そして鳥箱先生のすぐうしろに、まっくらな小さな穴がありました。
「はてな。あの穴は何だらう。獅子《しし》のほらあなかも知れない。少くとも竜のいはやだね。」と先生はひとりごとを言ひました。
 それから、夜になりました。鼠《ねずみ》が、その穴から出て来て、先生を一寸《ちょっと》かじりました。先生は大へんびっくりしましたが、無理に心をしづめてかう云ひました。
「おいおい。みだりに他人をかじるべからずといふ、カマジン国の王様の格言を知らないか。」
 鼠はびっくりして、三歩ばかりあとへさがって、ていねいにおじぎをしてから申しました。
「これは、まことにありがたいお教へでございます。実に私の肝臓までしみとほります。みだりに他人をかじるといふことは、ほんたうに悪いことでございます。私は、去年、みだりに金づちさまをかじりましたので、前歯を二本欠きました。又、今年の春は、みだりに人間の耳を噛《か》じりましたので、あぶなく殺されようとしました。実にかたじけないおさとしでございます。ついては、私のせがれ、フウと申すものは、誠におろかものでございますが、どうか毎日、お教へを戴《いただ》くやうに願はれませんでございませうか。」
「うん。とにかく、その子をよこしてごらん。きっと、立派にしてあげるから。わしはね。今こそこんな処へ来てゐるが、前は、それはもう、硝子《ガラス》でこさへた立派な家の中に居たんだ。ひよどりを、四人も育てて教へてやったんだ。どれもみんな、はじ
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