私が云いましたら慶次郎も心配そうに向うの方からずうっとならんでいる木を一本ずつ見ていました。
野原には風がなかったのですが空には吹《ふ》いていたと見えてぎらぎら光る灰いろの雲が、所々|鼠《ねずみ》いろの縞《しま》になってどんどん北の方へ流れていました。
「鳥が来なくちゃわからないねえ。」慶次郎が又云いました。
「うん、鷹《たか》か何か来るといいねえ。木の上を飛んでいて、きっとよろよろしてしまうと僕はおもうよ。」
「きまってらあ、殺生石《せっしょうせき》だってそうだそうだよ。」
「きっと鳥はくちばしを引かれるんだね。」
「そうさ。くちばしならきっと磁石にかかるよ。」
「楊の木に磁石があるのだろうか。」
「磁石だ。」
風がどうっとやって来ました。するといままで青かった楊の木が、俄《にわ》かにさっと灰いろになり、その葉はみんなブリキでできているように変ってしまいました。そしてちらちらちらちらゆれたのです。
私たちは思わず一緒《いっしょ》に叫んだのでした。
「ああ磁石だ。やっぱり磁石だ。」
ところがどうしたわけか、鳥は一向来ませんでした。
慶次郎は、いかにもその鷹やなにかが楊の木に
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