へ一遍帰ってから、さそいに行くから。」
「待ってるから。」私たちは約束《やくそく》しました。そしてその通りその日のひるすぎ、私たちはいっしょに出かけたのでした。
 権兵衛茶屋のわきから蕎麦《そば》ばたけや松林《まつばやし》を通って、煙山の野原に出ましたら、向うには毒ヶ森や南晶山《なんしょうざん》が、たいへん暗くそびえ、その上を雲がぎらぎら光って、処々《ところどころ》には竜《りゅう》の形の黒雲もあって、どんどん北の方へ飛び、野原はひっそりとして人も馬も居ず、草には穂《ほ》が一杯《いっぱい》に出ていました。
「どっちへ行こう。」
「さきに川原へ行って見ようよ。あそこには古い木がたくさんあるから。」
 私たちはだんだん河の方へ行きました。
 けむりのような草の穂をふんで、一生けん命急いだのです。
 向うに毒ヶ森から出て来る小さな川の白い石原が見えて来ました。その川は、ふだんは水も大へんに少くて、大抵《たいてい》の処なら着物を脱《ぬ》がなくても渉《わた》れる位だったのですが、一ぺん水が出ると、まるで川幅《かわはば》が二十間位にもなって恐《おそ》ろしく濁《にご》り、ごうごう流れるのでした。ですか
前へ 次へ
全11ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング