俄《にわ》かにしずかになって立ち、源吉ももう一遍《いっぺん》こっちをふりむいてから、席のそばに立ちました。慶次郎も顔をまっ赤にしてくつくつ笑いながら立ちました。そして礼がすんで授業がはじまりました。私は授業中もそのやなぎのことを早く慶次郎に尋ねたかったのですけれどもどう云うわけかあんまり聞きたかったために云い出し兼ねていました。それに慶次郎がもう忘れたような顔をしていたのです。
けれどもその時間が終り、礼も済んでみんな並《なら》んで廊下《ろうか》へ出る途中《とちゅう》、私は慶次郎にたずねました。
「さっきの楊の木ね、煙山の楊の木ね、どうしたって云うの。」
慶次郎はいつものように、白い歯を出して笑いながら答えました。
「今朝|権兵衛《ごんべえ》茶屋のとこで、馬をひいた人がそう云っていたよ。煙山の野原に鳥を吸い込《こ》む楊の木があるって。エレキらしいって云ったよ。」
「行こうじゃないか。見に行こうじゃないか。どんなだろう。きっと古い木だね。」私は冬によくやる木片《もくへん》を焼いて髪毛《かみのけ》に擦《こす》るとごみを吸い取ることを考えながら云いました。
「行こう。今日|僕《ぼく》うち
前へ
次へ
全11ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング