ちいさなクリームの壺がここにも置いてありました。
「そうそう、ぼくは耳には塗らなかった。あぶなく耳にひびを切らすとこだった。ここの主人はじつに用意|周到《しゅうとう》だね。」
「ああ、細かいとこまでよく気がつくよ。ところでぼくは早く何か喰べたいんだが、どうも斯うどこまでも廊下じゃ仕方ないね。」
するとすぐその前に次の戸がありました。
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「料理はもうすぐできます。
十五分とお待たせはいたしません。
すぐたべられます。
早くあなたの頭に瓶《びん》の中の香水をよく振《ふ》りかけてください。」
[#ここで字下げ終わり]
そして戸の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。
二人はその香水を、頭へぱちゃぱちゃ振りかけました。
ところがその香水は、どうも酢《す》のような匂《におい》がするのでした。
「この香水はへんに酢くさい。どうしたんだろう。」
「まちがえたんだ。下女が風邪《かぜ》でも引いてまちがえて入れたんだ。」
二人は扉をあけて中にはいりました。
扉の裏側には、大きな字で斯う書いてありました。
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「いろいろ注文が多くてうるさかった
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