かずに三分ばかり咽喉を鳴らして呑んでからやっと顔をあげて一寸《ちょっと》眼をパチパチ云わせてそれからブルルッと頭をふって水を払《はら》いました。
 その時向うから暴《あら》い声の歌が又《また》聞えて参りました。大烏は見る見る顔色を変えて身体《からだ》を烈《はげ》しくふるわせました。
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「みなみのそらの、赤眼のさそり
 毒ある鉤《かぎ》と 大きなはさみを
 知らない者は 阿呆鳥《あほうどり》。」
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 そこで大烏が怒って云いました。
「蠍星《さそりぼし》です。畜生《ちくしょう》。阿呆鳥だなんて人をあてつけてやがる。見ろ。ここへ来たらその赤眼を抜《ぬ》いてやるぞ。」
 チュンセ童子が
「大烏さん。それはいけないでしょう。王様がご存じですよ。」という間もなくもう赤い眼の蠍星が向うから二つの大きな鋏《はさみ》をゆらゆら動かし長い尾をカラカラ引いてやって来るのです。その音はしずかな天の野原中にひびきました。
 大烏はもう怒ってぶるぶる顫《ふる》えて今にも飛びかかりそうです。双子の星は一生けん命手まねでそれを押《おさ》えました。
 蠍は大烏を尻眼《しりめ
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