》にかけてもう泉のふち迄《まで》這《は》って来て云いました。
「ああ、どうも咽喉《のど》が乾いてしまった。やあ双子さん。今日は。ご免なさい。少し水を呑んでやろうかな。はてな、どうもこの水は変に土臭《つちくさ》いぞ。どこかのまっ黒な馬鹿ァが頭をつっ込んだと見える。えい。仕方ない。我慢《がまん》してやれ。」
 そして蠍は十分ばかりごくりごくりと水を呑みました。その間も、いかにも大烏を馬鹿にする様に、毒の鉤のついた尾をそちらにパタパタ動かすのです。
 とうとう大烏は、我慢し兼ねて羽をパッと開いて叫《さけ》びました。
「こら蠍。貴様はさっきから阿呆鳥だの何だのと俺《おれ》の悪口を云ったな。早くあやまったらどうだ。」
 蠍がやっと水から頭をはなして、赤い眼をまるで火が燃えるように動かしました。
「へん。誰《たれ》か何か云ってるぜ。赤いお方だろうか。鼠色《ねずみいろ》のお方だろうか。一つ鉤をお見舞《みまい》しますかな。」
 大烏はかっとして思わず飛びあがって叫びました。
「何を。生意気な。空の向う側へまっさかさまに落してやるぞ。」
 蠍も怒って大きなからだをすばやくひねって尾の鉤を空に突《つ》き上
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