のお月様が吐《は》いたのです。
 ふと野原の向うから大きな声で歌うのが聞えます。
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「あまのがわの にしのきしを、
 すこしはなれたそらの井戸。
 みずはころろ、そこもきらら、
 まわりをかこむあおいほし。
 夜鷹ふくろう、ちどり、かけす、
 来よとすれども、できもせぬ。」
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「あ、大烏の星だ。」童子たちは一緒《いっしょ》に云いました。
 もう空のすすきをざわざわと分けて大烏が向うから肩《かた》をふって、のっしのっしと大股《おおまた》にやって参りました。まっくろなびろうどのマントを着て、まっくろなびろうどの股引《ももひき》をはいて居《お》ります。
 大烏は二人を見て立ちどまって丁寧《ていねい》にお辞儀《じぎ》しました。
「いや、今日は。チュンセ童子とポウセ童子。よく晴れて結構ですな。しかしどうも晴れると咽喉が乾《かわ》いていけません。それに昨夜《ゆうべ》は少し高く歌い過ぎましてな。ご免下さい。」と云いながら大烏は泉に頭をつき込《こ》みました。
「どうか構わないで沢山《たくさん》呑《の》んで下さい。」とポウセ童子が云いました。
 大烏は息もつ
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