だ。一寸《ちょっと》のぞいて見よう。
黒い松の幹とかれくさ。みんなぞろぞろ従《つ》いて来る。渓が見える。水が見える。波や白い泡《あわ》も見える。あゝまだ下だ。ずうっと下だ。釜淵は。ふちの上の滝へ平らになって水がするする急いで行く。それさへずうっと下なのだ。
この崖《がけ》は急でとても下りられない。下に降りよう。松林だ。みちらしく踏まれたところもある。下りて行かう。藪《やぶ》だ。日陰だ。山吹の青いえだや何かもぢゃ/\してゐる。さきに行くのは大内だ。大内は夏服の上に黄色な実習服を着て結びを腰にさげてずんずん藪をこいで行く。よくこいで行く。
急にけはしい段がある。木につかまれ木は光る。雑木は二本雑木が光る。
「ぢゃ木さば保《た》ご附くこなしだぢゃぃ。」誰《たれ》かがうしろで叫んでゐる。どういふ意味かな。木にとりつくと弾《は》ね返ってうしろのものを叩《たた》くといふのだらうか。
光って木がはねかへる。おれはそんなことをしたかな。いやそれはもうよく気をつけたんだ。藪《やぶ》だ。もぢゃもぢゃしてゐる。大内はよくあるく。
崖《がけ》だ。滝はすぐそこだし、こゝを下りるより仕方ない。さあ降りよ
前へ
次へ
全18ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング