ろに光ってゐる。みんな躊躇《ちうちょ》してみちをあけた。おれが一番さきになる。こっちもみちはよく知らないがなあにすぐそこなんだ。路《みち》から見えたら下りるだけだ。
防火線もずうっとうしろになった。
〔あれが小桜山だらう。〕けはしい二つの稜《りょう》を持ち、暗くて雲かげにゐる。少し名前に合はない。けれどもどこかしんとして春の底の樺《かば》の木の気分はあるけれどもそれは偶然性だ。よくわからない。みちが二つに岐《わか》れてゐる。この下のみちがきっと釜淵《かまぶち》に行くんだ。もうきっと間違ひない。
小松だ。密だ。混んでゐる。それから巨礫がごろごろしてゐる。うすぐろくて安山岩だ。地質調査をするときはこんなどこから来たかわからないあいまいな岩石《もの》に鉄槌《かなづち》を加へてはいけないと教へようかな。すぐ眼の前を及川が手拭《てぬぐひ》を首に巻いて黄色の服で急いでゐるし、云はうかな。けれどもこれは必要がない。却《かへ》って混雑するだけだ。とにかくひどく坂になった。こんな工合《ぐあひ》で丁度よく釜淵に下りるんだ。遠くで鳥も鳴いてゐるし。下の方で渓がひどく鳴ってゐる。事によるとこゝらの下が釜淵
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