とても杉なんか育たないのです。〕うしろでふんふんうなづいてゐるのは藤原《ふぢはら》清作だ。あいつは太田《おほた》だからよくわかってゐるのだ。
〔尤《もっと》も向ふの杉のついてゐるところは北側でこっちは南と東です。その関係もありますがさうでなくてもこっちは北側でも杉やひのきは生えません。あすこの崖《がけ》で見てもわかります。この山と地質は同じです。たゞ北側なため雑木が少しはよく育ってます。〕いゝや駄目《だめ》だ。おしまひのことを云ったのは結局混雑させただけだ。云はないで置けばよかった。それでもあの崖はほんたうの嫩《わか》い緑や、灰いろの芽や、樺《かば》の木の青やずゐぶん立派だ。佐藤箴《さとうかん》がとなりに並んで歩いてるな。桜羽場《さくらはば》が又凝灰岩を拾ったな。頬《ほほ》がまっ赤で髪も赭《あか》いその小さな子供。
雲がきれて陽が照るしもう雨は大丈夫だ。さっきも一遍云ったのだがもう一度あの禿《はげ》の所の平べったい松を説明しようかな。平ったくて黒い。影も落ちてゐる、どこかであんなコロタイプを見た。及川《おひかは》やなんか知ってるんだ。よすかな。いゝや。やらう。
〔さあ、いゝですか。あ
前へ
次へ
全18ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング