大竹だ。「おら荷物置いで来たがらこっちがら行ぐ。」よからう。〔よおし。〕もう大竹が滝をおりて行く。すばやいやつだ。二三人又ついて行く。それからも一人おくれてひどく心配さうに背中をかゞめて下りて行く。斉藤《さいとう》貞一かな。一寸《ちょっと》こっちを見たところには栗鼠《りす》の軽さもある。ほんたうに心配なんだ。かあいさう。
市野川やみんながぞろぞろ崖をみちの方へ上って行くらしい。
さうすればおれはやっぱり川を下った方がいゝんだ。もしも誰か途中で止ってゐてはわるい。尤《もっと》も靴下《くつした》もポケットに入ってゐるし必ず下らなければならないといふことはない、けれどもやっぱりこっちを行かう。あゝいゝ気持だ。鉄槌《かなづち》を斯《こ》んなに大きく振って川をあるくことはもう何年ぶりだらう。波が足をあらひ水はつめたく陽《ひ》は射《さ》してゐる。
「先生ぁ、ずゐぶん足ぁ早いな。」富手かな、菅木かな、あんなことを云ってゐる。足が早いといふのは道をあるくときの話だ。こゝも平らで上等の歩道なのだ。たゞ水があるばかり。
「先生、あの崖《がけ》のどご色変ってるのぁ何してす。」簡だ。崖の色か。
〔あれは向
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